1911年にルーブルから盗難〜1913年フィレンツェで発見されるまでのフィクションである。 が
「話は推理小説もどきであれ、決して小説などではない。ーーすべて実際に起こったことであり、登場人物はすべて実在の人間であり、名前も、場所も、日時も、出来事もすべてはあったままに記述されている。 会話もほとんどは、公的文書、新聞記事、手紙、当事者の回想をもとにしたものである。−−推測は最小限にとどめーー」と <はじめに> 書かれている。
模写に関する制限など、ルーブル美術館の規則や、お金に目がくらんだ人達、イタリア人の愛国心などを絡めて、300頁強を一気に読み通してしまう内容である。
読後は、ルーブル美術館自体に親しみを覚え、鑑賞者としてだけではなく、美術館側からの立場で自分を含む入場者を意識するなど、結構違った楽しみ方を覚えた。
まったくのフィクションではあるが、著者は、「オックスフォードで美術史を学び、ロイター通信記者、ポールゲッティ財団顧問を経て、美術史関係の著作に専念」と紹介されており、
美術界裏側の知識が、いたる所に記述され、
贋作を描くカンバスは、同じ古い時代の駄作を使用する、
輸出入禁止をくり抜ける方法は、本物の絵の上に違う絵を描き、後で洗い落とすとか、
悪い奴ほど頭が良いと感心させられる。
「未発表のラファエロの傑作がローマ郊外の教会に眠っている」
「未発見のラファエロがクリスティのオークションに出品」
「厳密な科学的鑑定の結果、真正のラファエロと証明」など、ラファエロファンにとっては、題名だけでもドキドキする。
同じ著者で、<ティティアーノ委員会><ベルニーニの胸像><最後の審判><ジオットの手>の続編が発表されている。 まだ訳本を見出していないので、ご存知ならばご連絡を!
贋作事件で有名なのをご参考に
<ハン・フォン・メーヘレン>フェルメールの贋作をナチスのゲーリングへ売却
<オットー・ヴァッカー>有名な鑑定家の鑑定書付きのゴッホの贋作を35点も売却
<加藤唐九郎>永仁の壷。 ご丁寧に古窯跡まで贋作する、知能犯。 贋作が有名になり過ぎてばれただけ。
第一人者の鑑定の中途半端な贋作は、数多 数多 だろうね。
著者は、「サントリーミステリー大賞」「49回日本推理作家協会賞」などを受賞。
さえない書名だと思うのだが、内容は、5編の短編で構成されている。
各編が、それぞれ日本の業界の裏テクニックを、巧みに面白く紹介され、読み終わった後は
日本の画廊や道具屋がすべてボロモウケしていると錯覚させられる程、リヤリティに富んでいる。
<業界紙記者と個展の関係> 紹介記事とお車代、特集記事と広告代
<総会屋と贋作> 企業の裏金作りに贋作が
<相剥アイハギ> 和紙に描かれた作品を、薄く2枚に剥いで、本物が2枚になる
<写真から直ぐに落款が複製可能>
<時代の付け方><茶道具は、作品よりもその来歴に値が付く><隠しサインの存在>
<老人と子供しかいない時を狙って蔵に入るのが初出し屋の手口><信者からの寄進は無税>
<客にクレーム付けられたら、売値で買い戻すのが道具やの仁義><道具屋が掘り出しもんを客に売ったら、飯の食い上げや>などなど
読み方によっては、裏知識の宝庫である。
著者は、警視庁勤務のお医者さんを退職後、シナリオ作家、美術評論と多才な人物である。
内容は、日本の話題、世界の話題と25編に分かれている。
<日本>
写楽の贋作、唐九郎の永仁の壷、佐野乾山、魯山人、棟方版画 などなど
古い電柱から円空仏を彫りだすと、丁度良い時代が出る
<欧米>
デューラーのクローン、ダヴィンチの花の女神、フェルメール、クレー、ロダン、
真作キリコを自ら贋作としたキリコ、ゴッホ、ルノアール少女像
世界に広がる贋作版画 などなど
本物のデューラーの15mmの板絵を、前後に割き7mmずつの表絵と裏板に分けて、本物の裏板に偽の絵を描き元に戻し、真筆の絵は、裏をつけて他の美術館へ。